眠りの魔獣
ある種のラジオ放送はどうしようもなく私を眠りに連れていく。布団の中でその音声を耳にするや否や、ほとんどノータイムで眠ってしまう。そういう条件付きでなら、かの野比のび太閣下とも張り合うことができるのではないかというくらいだ。意識を失うと表現することさえ可能だろう。
私が眠ってしまう自覚がある放送は、2つ。
1つは「伊集院光深夜の馬鹿力」である。そう、現ラジオ界の王様、伊集院光の深夜の馬鹿力である。
私が1番好きなのは、ど頭、「今週気づいたこと」なのだが、もう随分たどり着けた記憶がない。
例のオープニングジングル。ブゥーン!「レーディスアンジェルメン」(ニャー)(アー)(……パチパチパチ)「カモ、カモ」「カモォーン!(カモーン)」プーパラポプーパッポプーポッポ「カモーン(ンンン)」トルタトルタ、トゥンティントォーン!、…ズン、ジャァアンク!、ビィー!ヴォー!ウィー!!
で、いうところの、ジャァアンク!前には大概眠っている。
凄いとは思わないか?
月曜深夜にコレを聞きたいがために起き続けて、30分前からラジコを立ち上げて、なおかつ、開始まで起きていて、始まって30秒後にはもう寝ているのだ。しかも私は深夜の馬鹿力が好きで、リアルタイムで聞きたいからそうしているのに、伊集院光が話し出す前に寝ているのだ。
もはやこれは病気なのでは?
もう1つは、IGNジャパンというゲーム情報サイトのYouTube動画の「喋りすぎゲーマー」というシリーズだ。これはIGNのライター兼編集が何人か集まって色んなテーマでゲームについて座談会をするというもので、動画ではあるが実質ラジオみたいなものだ。
オープニングお決まりの挨拶に「ヘーイミナサーン、コニチワー、シャベリスギー、ゲーマーへー、ヨウコソー」というのがあるのだが、これの挨拶中に寝てしまう。よしんば挨拶を越えたとしても、次の話題の前振りをしてる間にほぼ確定で寝てしまう。毎週火曜を割りに楽しみしているのだが、私の脳の睡眠を司る箇所(ググったら、大脳辺縁系っていうんだって。なんだか壁画に書かれた架空の伝説的動物のような語感がある。ありません?きっと象のような長い鼻と、コウモリのような翼があって、樹海のようにけむくじゃら。クジラのようにデカイ。たぶん。)は私の楽しみな気持ちは一切無視して沼のような眠りの中に容赦なく引きずりこむのだ。
私は気づいたのだが、この2つの放送にはいくつかの共通点がある。
おそらく私の眠りの魔獣はこのいくつかの共通点を目印にして、その圧倒的な吸引力で意識を吸いとってしまうのだ。
1つ。定番のオープニングがある。オープニングの最中に眠くなるのはそれ自体がトリガーである可能性がある。
2つ。楽しみにはしているが、聞き逃しても別に困りはしない。悔しくもない。人生感を揺さぶるような強い影響は起きない(と思っている)。こちらに集中力を要請しない。気楽。
3つ。完成された作品ではなく、即興的な「話」である。音声情報なので目を瞑ったまま楽しめる。
まとめると、週一くらいでやってる気楽な内容のラジオ放送以外の何物でもなく、何の面白みもない(ただのラジオ眠くなるおじさんじゃないか)そのままの結論に至ってしまうが、ちょっと待って欲しい。私の考えが合っていれば、これの要素を含んでいれば、おそらくラジオ放送でなくとも、眠りの魔獣はやって来て、魂を引っ張っていく筈だ。
じゃあ、それは例えば何か?
何か?
ユリイカ!
それはピロートークではなかろうか。
世間様では終わった後の男性の冷たさ、態度の豹変を嘆く声が存在するが、あれは実は、眠りの魔獣のせいなのではないか!?放出した男性の内、頭上に魔獣を飼っている人は、意識をチュウチュウ吸われている最中なので、甘いトークをろくに楽しむことが出来ずに眠りに落ちてしまうのだ。それは愛情のなさではなく、単に魔獣の悪魔的行為に過ぎないのだ。
そして、ここが大事なのだが、先程上げた共通点の内3つ目を思い出して欲しい。
「完成された作品ではなく、即興的な「話」である。音声情報なので、目を瞑ったまま楽しめる」
つまり、「話」である事がピロートーク中に眠くなる原因の1つだと考えられる。
もしあなたがピロートーク中に眠る彼氏を嘆く方であるならば、やれ、良かっただの、素敵だっただのと感想やお世辞を言うのではなく、もっとこうしたら良かったのではないかと、ほとんどプロ棋士の試合の後の感想戦じみたピロー議論を展開したら、魔獣は目印を見つけることが出来ずに困ってしまうのではないか?如何か?
如何?
なんだこの結論は。
実は見切り発車のまま書き始め、「何か?」の後、何も思いつかずに、ひと月が経ってしまったので、もう切り上げることにしたのです。
すいません。撤退します。失礼。