おっさん少女とほとんど休出

せっかくの日曜日に、つまりは休日に、やーんなっちゃうんだけど社内の人に会う必要があったの。私はそれを休出と変わらないと考えるのだけど皆様はどう?

とはいえ、私服でちょちょっと会うだけだし、仕方ない。午後はそのままどこかに出かけようと思って、賑わう駅前のドトールで待ち合わせたの。

空が真っ青で良く晴れてた。

 

別部門の人だから、顔は見知ってるけど親交はない。

ぱっと見の印象は真面目で堅そう。痩せ気味の面長で、薄いフレームのメガネかけてて。いくらか神経質そうな。

細めチノパンにやや大きめのネルシャツ。袖を少しまくってた。普通のおじさんの格好。でもシルエットは40過ぎにしてはちょっと若い感じがした。

休みの日だったからちょっと気が抜けてたのね。流れで個人的な話になったの。ああ見えて話好きなんだと思う。

あるいは休日の魔力かしらん?

よくある話。

どこ係のなになにさんが学校の先輩で「へぇそうなんですか」ああ見えて昔はどうたらで「あ、あーそうなんですか」僕は嫌だったんですけど無理矢理ね「あー、そうですか…」でもそのあとあの人「よかった安心しました」みたいな。

ちょっと眩しそうな感じで楽しそうに大学時代の話をしてた。きっと彼にとっては思い出すとついテンション上がっちゃうような時代なのね。

まったくね。色んな人がいる。

私にとっての大学時代は全然そうじゃなかったから、できるだけ聞き役にまわった。その人気持ちよさそうにおしゃべりしてたんだもの。水を差すような話をしたくなかった。かといってせっかくの晴れた休日にたかがおしゃべりに嘘をつくのもなんだか嫌だったし。

 

全くの話、大学時代は全然楽しくなかったの。あの頃のことを思い出すと、なーんかジトッとした雨の中を歩いてるみたいな気分になる。服も靴も濡れちゃってさ。グシュグシュいわせながら歩いてるの。3歩ごとに立ち止まって「ハァー」ってため息をつくような、ね。

そりゃ思い出そうとすれば楽しげなエピソードの一つや二つ、あることはあるよ。でも全体としてはダメね。

あの頃の友達には悪いんだけど、全体としては楽しかったとはとても言えない。

もちろん友達のせいじゃなくて、私のせいだけど。

 

だからだと思うんだけど、その人の大学エピソードを聞いてたら羨ましいというよりは気持ち悪いと感じたの。

昔のエピソードというよりは昨日のエピソードを話してるみたいな、大学で起きた事をその日のバイトで同僚に話すようなニュアンスがあったのよね。何というか、未だに先輩後輩の関係性がそこにあるというのがありありとしてた。言葉のはしばしでそういうソーシャリティがあるのが見えてた。隠しもしてなかったんだけども。

正直、ちょっと異常な、怖い感じがした。

でも学閥って言葉があるくらいだし一般的なことなのかしら?

理解にくるしむ。

これが友人だってのなら私にもわかる。大学の頃からの友達なんですよ。長い(どちらかといえば素敵な)付き合いですね。そう思うだけ。

でも、私の思い違いじゃなければ、「先輩にいじられて、構ってもらえて嬉し苛立ち」みたいなニュアンスがあったのよね。根っからの後輩根性みたいなものが。

 

私はどうもこの後輩根性がなかった。

というか公的なソーシャルな輪っかみたいなものが苦手だったのね。友人ともいいがたい人たちと、輪っかの中にいるからとりあえず付き合いをしていくのがダメだった。なんかバカみたいじゃない。人気ものに見られたい小動物じゃないんだから。チワワか。

 

とはいえ、この性向は社会人になった時に決定的に悪いものとして現れることになったのである。……うふー。

だってチワワ可愛いじゃない。人気出るじゃない。それに比べたら私なんてせいぜい荒れ屋につながれたギャンギャンうるさい汚い雑種よ。もうたちうちできない。

年をとってきてなんとか最小限の付き合いはできるようになった気がするけど、それまではひどかった。

 

なんの話だったかしらん?

えー、だから必ずしも良い悪いって話じゃないんだけど、それでもいい年して大学時代の関係がそのまま続くのは異常だと思うの。だってあれは仮の社会なわけじゃない?

ソーシャルな振る舞いを学ぶ場だというのは一理ある。でも、いい年まで続いているなら、先輩後輩からただの友人にシフトしてなきゃおかしいと思うわけ。

だからその会社の人の話を聞いていたら、怖くなっちゃた。

ゼミで隣り合っただけの学生がなんとか話のつながりを探そうとしてきた時みたいな辛さが沸き起こってきたの。

そういうのには慣れたと思っていたのに。せっかくの晴れた休日なのに。

 

その日の用事を匂わせ、適当に話を打ち切った。

茶店を出たら空気が澄んでて気持ちが良かった。まだ休日は終わっちゃいない!そんな事を思いながら雑踏に踏み込むおっさん少女なのであった。おわり。